現在、航空業界は世界の二酸化炭素(CO₂)排出量の約2.5%を占めています。一見すると少なく感じるかもしれませんが、飛行機は鉄道や船舶と比べて輸送効率が低く、CO₂排出量の多い交通手段であるため、脱炭素化の大きな課題となっています。
しかし、航空業界では安全性、軽量性、経済性が重視されるため、新しいエネルギー技術の導入が難しいのが現状です。
- 電動飛行機は、同じ重量の燃料と比較して電池のエネルギー密度が100分の1以下とされ、大型機には実用的ではありません。
- 水素燃料飛行機は燃料の保管技術が未成熟で、商業運航にはまだ遠い状況です。
このため、現実的な脱炭素策として注目されているのが「持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)」です。
SAFとは?なぜ「廃食用油」が使われるのか
SAFは、通常のジェット燃料(航空灯油)に代わる再生可能な燃料で、植物由来の油脂や廃食用油(いわゆる「地溝油」)、稲わら、バイオエタノール、都市の有機廃棄物などを原料に製造されます。
従来の航空燃料は化石燃料を使用するため、燃焼時に新たなCO₂を排出しますが、SAFはもともと大気中に存在していた炭素を含む植物や有機廃棄物を原料にするため、カーボンニュートラル(排出量ゼロ)に近い状態を実現可能です。一部のSAFは従来の航空燃料と比べて最大80%のCO₂削減が可能とされています。
エアバスは、2030年までにSAFの利用率を100%にすることを目標としており、現在A350を使用した100%SAF飛行試験を進めています。
SAFの実用性と最新の導入状況
SAFのエネルギー密度は従来の航空燃料の80%以上に達しており、既存の航空機に大きな改造をせずに使用可能です。そのため、多くの新型機はすでにSAF対応になっています。
例えば、中国東方航空のC919型機は、2023年9月から一部の路線でSAFを使用した商業運航を開始しました。
現在のSAFの主流は、50% SAF + 50% 従来の航空燃料の混合燃料ですが、100% SAFでの運航はまだ試験段階です。欧州連合(EU)やシンガポールでは、航空燃料の一定割合をSAFに置き換えることが義務化されており、今後の普及が期待されています。
SAFの課題と普及へのハードル
生産量の少なさ
現在のSAFの世界年間生産量は約6億リットルとされており、航空業界全体の燃料需要の1%にも満たない状況です。生産が限られているため、供給量が増えず、普及が進みにくいという悪循環に陥っています。
コストの高さ
SAFは技術的には実用化されているものの、価格が従来の航空燃料の2.5~5倍と高額です。
- 一部の航空会社では「エコフライト」として高額な環境負担軽減オプションを提供していますが、利用者は少数派です。
- 例えば、ルフトハンザ航空では追加料金を支払うことでSAFを使用するオプションがありますが、選択率はわずか3%程度にとどまっています。
インフラの未整備
SAFの供給には、製造拠点の整備に加え、輸送・保管のインフラが必要です。しかし、現在の航空燃料供給網は化石燃料に最適化されており、SAF専用のインフラ整備には多額の投資が必要です。
SAF普及への取り組みと今後の展望
SAFの課題を克服するため、各国政府や企業が積極的に支援策を進めています。
各国の取り組み
- EUでは、2030年までに航空燃料の6%をSAFに置き換えることを義務化。
- シンガポールでは、すべての国際線で一定割合のSAF使用を推奨。
- アメリカでは、バイデン政権がSAF生産促進のための補助金制度を導入。
航空会社の動向
- エアバスは100% SAFでの試験飛行を実施。
- ボーイングはSAFの利用拡大を推進し、2030年までにすべての新造機をSAF対応に。
- 中国東方航空はC919をはじめとした新型機でSAF導入を開始。
SAFの普及にはまだ多くの課題がありますが、技術の進化や政策支援により、2030年代には実用化が進むと予測されています。
まとめ:SAFは航空業界のカーボンニュートラル実現の鍵となるか?
項目 | SAF(持続可能な航空燃料) | 従来の航空燃料 |
---|---|---|
CO₂排出量 | 最大80%削減可能 | 化石燃料由来のCO₂を排出 |
原料 | 廃食用油、植物油、バイオエタノール | 原油 |
エネルギー密度 | 航空燃料の80%以上 | 100% |
コスト | 2.5~5倍高い | 安価 |
インフラ | 供給拠点が未整備 | 既存の供給網が確立 |
導入状況 | 一部の航空会社で使用開始 | 業界標準 |
今後、SAFが普及することで、航空業界の脱炭素化が大きく進む可能性があります。しかし、コストや供給量の問題を解決しなければ、実用化のハードルは依然として高いままです。
航空業界のカーボンニュートラル実現には、技術革新だけでなく、政策の支援や企業の努力も必要不可欠です。今後のSAF市場の成長に注目していきましょう。
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